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ASHINO KOICHI +plus

彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ

夜の陽だまり 

2021/04/08
Thu. 03:00



その猫の名前はヌイと言った。
フランス語の<nuit:夜>からとったもので、夏の夜のような色をした猫だった。

記憶の中のヌイは畳の上にできた陽だまりの中にいつもいる。
菱田春草の描く黒猫のように毛先をぼんやりと金色に光らせて、香箱を組んで、頭を陽の差し込む窓の方に向けてじっとしている。
僕は記憶の中のヌイに声をかける。
ヌイはめんどくさそうにゆっくりと頭を上げ、目を閉じたままこちらを向き、薄く目を開けて僕を確認すると、にゃあと言い、また目を閉じ、そしてゆっくりと元のかたちに戻る。
もう一度声をかける。
でも、もうヌイはこちらを見ることはない。
動くこともない。
ただじっとしている。
陽だまりの中で。



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慎ましやかなハロウィン 

2020/10/31
Sat. 05:21



どうやら今日はハロウィンのようです。
今年は46年ぶりの満月らしいです。

十数年前までは友人宅で催されるパーティーらしきものに参加していましたが、少しずつ間遠くなって、いまはディスプレイ等に飾られるJack-o'-Lanternを眺めて、当時の宴に思いを馳せるだけの年寄りとなってしまいました。
ホスト(他数名)による料理とBYOBでただ楽しむだけのものではありましたが、参加者それぞれが、ちょっと派手なメイクをしたり、黒猫耳をつけたり、ドラキュラの牙や黒衣装で装ったり、カボチャやフォックスフェイスで作った手製のJack-o'-Lanternを持ってきたりして、慎ましやかな雰囲気作りはあったように思います。

(「慎ましやか」と書いてしまいましたが、現在のような派手派手仮装ではないということであって、たぶんみんな気合入っていたと思います。)



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写真は合成のように見えますが、加工してません。今日撮った満月一日前のものです。洋館と月と空がハロウィンっぽいでしょ。月見えませんけど。



 

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びくともしない子供たち 

2020/10/18
Sun. 15:05




昔住んでいた賃貸マンションのトイレのドアに「キキとララ」のプレートが貼ってあった。
おそらく前に住んでいた家族に女の子がいて、その子の好みのものを親が貼ったものであったのだろう。母親好みだったのかもしれない。
引っ越してすぐにそのプレートを外そうと試みたが、驚異的な力強さで接着していてびくともしない。マイナスドライバーが付け入る隙さえ無かった。
友人が来るたびに「そのプレートを貼ったのは私ではない」的な説明をしなければならないことに嫌気がさし、けっきょく私はその、「キキとララ」を隠すように、同じ大きさの紙に自分でわけのわからない絵を描いて上から貼り付けた。画材のメディウムを使って強力に貼り付けた。表面もそれでコーティングした。
今もそのマンションは変わらずある。私の後にそこに越してきた人も、「この下手くそな絵は私が描いたのではない」的な発言をし、私と同じ道を歩んでいるのだろうか。



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ネットで「キキとララ」のことを見かけてこんな話題になってしまったのだが、私にとって新しい発見があった。
二人とも女の子だと思っていたが、キキの方は男で二人は姉弟であるということ。
もう一つは二人の身長がそれぞれ1700kmを超えるということ。
170センチメートルではない。1,700キロメートルである。
「ふたり合わせてお月様と同じくらい」(公式発表)
びくともしないはずだ。


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泥団子 

2020/07/10
Fri. 04:19




幼稚園に通っていた頃、Y君という子が私のクラスである「ゆり組」に転入してきた。

Y君は性格が穏やかで、標準語を話すことも影響したのだろうが、私たちより3歳も4歳も大人びて見えた。クラスのみんなともすぐに仲良くなったと記憶している。



友人達との間で、土に水を加えて泥団子をつくる遊びが流行ったことがあった。そこにはY君もいた。

泥団子は、表面がつるつるで輝いているもの、完全な球体に近いものほど良しとされた。

皆、誰よりも価値の高い泥団子をつくることに懸命だった。

できた物はほぼ同じように遠目には見えたが、つぶさに見るとY君のつくる泥団子は一際完成度が高く、私も友人も舌を巻いた。土を選別して粒の大きさを揃えているからに違いないと意見が一致した。

それからは全員が土の選別を最初に行った。細かい石や小さな乾燥した草のようなもの、ゴミなどを徹底的に取り除いた。
細かい粒子の土だけにし、水の加え方も少しずつ土を練りながら行うことにした。そうすると、Y君の作る泥団子と遜色がないどころか、Y君の泥団子を上回る出来栄えの物もちらほら現れるようになった。

できた泥団子は、次に遊ぶ時が来るまで、人が入らない園舎の軒下で乾燥させられた。乾燥した泥団子は、艶は失われるものの形はそのまま残り、球体としての存在をよりいっそう堅固なものとした。



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ある日のこと、乾燥したであろう泥団子を見に行くと、Y君の泥団子だけが何者かによって壊されていた。

私と友人達はひどく憤って怒りの言葉を口にしたが、Y君だけは平然としていた。怒りも悲しみも彼の表情から読み取ることはできなかった。

その事件があってすぐ、Y君は父親の仕事の都合でまた別の土地に行ってしまうことが知らされた。

そしてお別れの挨拶も碌にせぬままY君はいなくなってしまったのだった。

あの泥団子を壊したのはY君自身だったのではないか、とそれからしばらくして思った。


 

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花の数 

2020/06/13
Sat. 05:44




席が空くのを待つあいだ、私たちは桜の横の椅子に座っていた。

この枝にいくつの花が咲いていると思う?と友人は言った。

古い日本家屋をそのまま利用した和風茶屋で、その軒先の鉢に、数本の見事な桜の枝が生けてあったのだ。

友人は小さく首を動かしながら花を数え始めた。

見たところ、小さい蕾もだいぶあったし、わずかにほころび始めたものから、それこそ全開のものまで、どこから咲いた花として数えたらいいのか私にはわからなかった。

通りの向こう側の、店先に桜の無い茶屋はすぐに座れるらしく、訪れる客はすぐに席に案内されていた。



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黄色いTシャツを着た地元の子が、太いタイヤの自転車で前を過ぎて行った。タイヤが道から剥がれる音が心地よかった。

遠く小さくなっていくその子のTシャツの背中に何か見たことのあるキャラクターがプリントしてあった。

さあ、いくつでしょうか?と友人は私に聞いた。

私は、あのキャラクターなんだったっけ、と考えながら、51と言った。



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