ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
卯の花月のころ(4)
2015/04/29
Wed. 05:52
父が給仕の一人と、たどたどしい日本語で喋っていた。父は、日本人のエッセンスを集めてさらに煮詰めてどろどろにしたような生粋の日本人なのだが、おそらく若い女性を相手にして緊張しているのだろう。まあそこは日本人だからこそと言えるのかもしれない。
どうやらお土産に渡した「山田家の富貴豆」(我が家のお土産の定番なのだ)のお礼を言われたようで、その富貴豆についての蘊蓄をなにやらかにやら語っているようだった。

料理長によると、その給仕の女性は、今日が仕事最後の日らしかった。
僕はこの春に仕事場を離れていった数人の後輩の姿を重ね、無粋にも勝手にその理由と心情を想像し、そこに自分自身の現状を投影してアナロジーを試みる。
だが、言葉の限界が思考の限界であるように、想像や類推はどうしても経験によって規定されてしまう。その狭い範疇から浮かび上がってきた自分の現状と近い未来の姿は、小さい枠の中から出ることのない陳腐なものだった。
そのとき、不意に、ほんとうに不意に、Hさんのことを思い出したのだ。
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