ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
スピンオフ(エレベーター)
2015/05/22
Fri. 01:51
停まった途中の階で、アジア系のどこかの国の家族連れが乗ってきた。
小さい女の子と手をつないだ母親と、少し背伸びした服装の男の子と、父親だった。
母親が何かを父親に言い、父親がそれにこたえ、男の子がそれに対して早口で何か喋って、3人で笑った。
女の子は、黙ったままじっくり品定めするような目でずっと僕を見上げていた。僕は心の奥底にある澱みを探られまいと薄ら笑いをする。それにつられて女の子もにっと笑ってから恥ずかしそうに目をそらす。
最後にこうやって家族みんなで一緒にエレベーターに乗ったのは、いつ、どこでだっただろう。
どこかに一緒に出かけたり、ご飯を食べたりといった、まだ小さいころ、家族で一緒にしていた当たり前のことは、徐々に特別なものとなっていく。
そして、その当たり前のことだったものは、いつか本当に手に入れることのできないものとなるのだ。
そう思った途端、おそらくもう来ることがないであろうこの狭い閉ざされた空間にいる今が、とても貴重な場所と時間に感じられた。
仕事なんか放棄して、弟も一緒に乗ればよかったのに、と思った。そして隣の家族のように何かの話をして、みんなで笑うのだ。馬鹿だなあいつは。なんで来なかったんだ。とさえ思った。

一階に着く。
僕は「開」のボタンを押しながら「どうぞー」と日本語で言って、異国の家族を先にと促す。
目があった女の子に小さく手を振ると、女の子もさっきと同じ恥ずかしそうな表情で小さな手を振り、お母さんに引っ張られるようにして小走りになって降りていった。
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