ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
痕跡
2015/06/30
Tue. 00:39
昔、サイパンで泊まったホテルには男の霊が出た。
その霊は、ずっと部屋のエアコン本体の下に立って、こちらに背を向けたまま、エアコンの電源を切ったり入れたりするのだった。
サイパンには戦没した日本兵の霊が出るということを耳にしたことがあった。現れた霊はぼんやりとしていて、国籍も、何を着ているのかも判らなかった。ただ男だということだけを感じた。
友人は隣のベッドで死んだように眠っていて、その安定した寝息のせいか、まったくと言っていいほど霊に対する不安も恐れも生じず、そのうち私も眠りに落ちた。
朝になり、いつの間にか起きていた友人が「窓にヤモリがいるよ」と私を起こして言った。
嵌めごろしの窓の外側には、奇妙な足の裏を見せたヤモリがはりつき、じっとしていた。
霊のいたところに目をやると、うっすらと人のように見えないこともない染みがあるだけだった。
そのとき友人が「あっ」と声をあげた。
ヤモリがとつぜん落ちたらしく、目を戻すとただの窓しかそこには無かった。

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