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ASHINO KOICHI +plus

彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ

エルクの眼 

2010/07/11
Sun. 04:52



もうずいぶん昔に訪れた、カナダのある町では、
エルクという野生の鹿をいたる所に見ることができた。
メインストリートから少し裏の林に入れば、木々の間にその姿があったし、
道路に出て来て、車の進行を妨げたりしているものもあった。

宿泊したホテルの部屋の窓の外には森が広がっていた。
早朝、カーテンを開けると、朝靄の中に一頭の雄のエルクがいた。
緑と白に霞む空気の中で、赤い毛のその大きな躰は荘厳でさえあった。
彼はこちらを見上げ、僕たちはじっと見つめ合った。
こんな自由に森で生きているのに、
彼の眼には、悟りの末のおだやかな諦観とでもいうような色が満ちていた。

それ以来、自分の力ではどうにもならないことに遭遇すると、
圧倒的なものを前に自分はなんて無力な存在なんだ、
と自覚する出来事があると、
僕はこのエルクの眼を思い出すのだ。


R0014068.jpg


今日、自動販売機で110円の水を千円札で買ったら、
おつりに17枚の硬貨が降ってきた。
永遠に続くような返却口にがちゃがちゃ落ちる音を聴きながら、
僕はあのエルクの眼を静かに思い出したのだった。

[edit]

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この記事に対するコメント

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# |  | 2010/07/12 00:14 * edit *

Re: タイトルなし

10円が無かった時点で、こうなることはある程度予期していました。

KOY #- | URL | 2010/07/12 03:43 * edit *

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