ASHINO KOICHI +plus
彩書家・蘆野公一の日々のつれづれ
畑の消失
2012/03/09
Fri. 22:11
畑があった。
その畑は、管理者が、知り合いの地主から土地の一画を借り、人を雇い、耕したものだった。
種を蒔き、水をやり、丹精こめて手をかけた甲斐あって、そこでは多くの作物が穫れた。
そこでできた作物はいびつであったし、味も個性的でけっして良かったとは言いきれないが、そこが好きだと求めてくれる消費者の方も数多くいた。
ある日、土地の所有者は、手持ちのすべての土地をひとつにまとめ、そこに巨大な農作物クローン工場をつくると言い出した。
その畑を管理する人たちは、土地の所有者に対し、畑の存続とその権利を訴えかけたのだが、その訴えは、畑を焼き払われるという惨いかたちで斥けられた。
育っていた作物もろとも焼き払われた。一郭に建っていた、種や苗、培ってきた情報などが記された記録書の類いが仕舞われた倉庫も一緒に灰となった。
作物の生育に直接携わっていた人たちはそれを次の日に知った。
消失した畑の上で、彼らは肩を落とした。

やるせない。
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